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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)2217号 判決

控訴人

タエヨング・チュングこと鄭泰龍

右訴訟代理人

安野一三

被控訴人

バロース・コーポレイション

右代表者

ケネス・エル・ミラー

右訴訟代理人

福田彊

土谷伸一郎

中川康生

山川博光

山田善一

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所も、被控訴人の本訴請求を正当として認容すべきものと判断するが、その理由は、次のように附加、訂正するほかは、原判決理由説示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

1  原判決一〇枚目表六行目から同枚目裏一行目までを次のように改める。

「(三) 次に、第三号の要件であるが、この点について、被控訴人は、同号にいう「公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反セサルコト」とは、外国裁判所の判決内容のみならず判決の成立手続もわが国の公序良俗に反しないことを要する旨主張するに対し、控訴人は、被控訴人主張のように広く解すると、判決の適否を実質的に審査することとなり、民事執行法第二四条第二項に違反することとなると反論する。民事訴訟法第二〇〇条第三号は、外国法適用の制限に関する法令第三〇条とその目的を同じくするもので、「公ノ秩序」又は「善良ノ風俗」の概念は必ずしも一義的に決することは困難であるが、当該外国裁判所の判決の内容だけにとどまらず、例えば、当該外国裁判所の判決が詐欺により取得されたものであるとか、第三者の不法行為により成立したものである等判決の成立手続に司法の侵害とか民事訴訟の基本原則に対する違背の重大なかしが存するときは、その外国裁判所の判決を承認することはわが国の公序良俗に反して許されないものと解され、かように判決の成立手続に関するものも右第三号に含まれるとすることは、当該判決の内容の実体的当否の調査を禁止している民事執行法第二四条第二項に違反するものではないものと解すべきである。

そこで、まず本件外国裁判所の判決の内容をみるに、同判決は、後述のとおり、被控訴人が控訴人に対して有する売掛代金の支払を命ずるものであり、わが国の公序良俗に反するものでないことは明らかである。」

2  原判決一一枚目裏四行目の「認められ、」の次に「本件外国裁判所の判決が、控訴人主張のように、その成立の手続過程において詐欺的手段が用いられ裁判所を誤信させて取得されたものであるとは認められず、そのほか」を加える。

3  原判決一二枚目表一行目の前に次のとおり加える。

「まず、被控訴人は、コロンビア特別行政区の裁判所は、「相互の保証」を要求しないでわが国の判決を承認するであろうから、本件において民事訴訟法第二〇〇条第四号の「相互の保証」を要求することはないであろうと推察される旨主張するが、コロンビア特別行政区における外国裁判所の判決の承認には「相互の保証」が要件とされていることは、次に認定するとおり(原審鑑定人池原季雄の鑑定による同要件の8)であり、被控訴人提出の証拠によつてもこれを覆えすには足りず、他に右主張を認めるに足りる証拠は存しない。」

4  原判決一二枚目表六行目冒頭から同一四枚目表末行目までを次のとおり改める。

「そして、右1の要件は民事訴訟法第二〇〇条第一号と、8ないし10の要件はそれぞれ同法第二〇〇条第四号・同条の各号列記以外の部分及び同条第三号(なお、右6の要件については、上述したとおり、同第三号の中に含まれるものである。)とほぼ同一内容のものであることが認められるが、右2ないし5及び7の各要件については、わが民事訴訟法には、これらに相当する明文の規定は存しない。

ところで、外国裁判所の判決の承認の要件が当該判決国とその判決の承認を求められている国とで完全に一致することは到底期しがたいところであり、当該外国の定める他の外国の判決の承認の要件とわが国のそれとが全く同一でなくとも重要な点でほぼ同一であり、当該外国の定める右要件がわが国の定めるそれよりも全体として過重でなく、実質的にほとんど差がない程度のものであれば、両者を等しいものとみて民事訴訟法第二〇〇条第四号の「相互の保証」があるものと解してさしつかえないものと考える。

そこで、上述したコロンビア特別行政区における外国裁判所の判決の承認の要件2ないし5及び7について審究するに、右2の要件は、被告に対する適法な告知等による防禦権の保障であり、民事訴訟法第二〇〇条第二号の要件を敗訴の日本人に限定せず一般化したものであつて民事訴訟手続の基本的要請を掲げたものであり、また、同3ないし5及び7の要件は、いずれも当該外国裁判所の判決の審理及び成立の手続における適正、公平並びに当該判決の承認の国際法上の妥当性を定めるもので、裁判制度におけるいわゆるデュー・プロセスに属する事項を掲げたものであり、これらは上述した民事訴訟法第二〇〇条第三号の要件より過重なものではなく、同号の要件と重要な点でほぼ同一であり、実質的にほとんど差がないものと認めるのが相当である。したがつて、コロンビア特別行政区の判決の承認の要件に、上記2ないし5及び7の要件が掲げられていても、「相互の保証」があると認める妨げとなるものではない。」

二よつて、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(小林信次 平田浩 浦野雄幸)

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